トランジスターと言ったら、まず「増幅回路」という言葉が、すぐ思い浮かびます
小さな信号を大きくする「増幅回路」は、アナログ回路の王道です
しかし、電気のことを全く知らないと「回路図」を見ても、一体何がどうなっているのかわかりませんよね
本を買って、アナログ回路を「ガチ」で学ぼうと思うと、いきなり数式です・・・
ここでは、そんな回路学習に苦しんだ「筆者の復習」も兼ねて書きたいと思います
図などを使って、できるだけ簡単に基本を説明できたらと思います
オームの法則については、こちらに詳しく書きました
トランジスタとは何?という方、はこちらをどうぞ
「接地」ってどういう意味?
ずばり、「共通(common)」という意味で使われています
英語では、エミッタ接地増幅器=common emitter amplifier です
増幅回路では信号の入力、出力があります。
信号の伝達に「入力2本・出力2本」の計4本配線が必要ですが
トランジスターは3本しか端子がありません
必然的にトランジスタ端子の「どれか」を入出力で「共有」するわけです
つまりは、トランジスタで「共有される=共通」端子の名前をとっているわけです
エミッタを共有するから「エミッタ接地」増幅回路
というわけですね
「エミッタ接地増幅回路」以外に
- ベースを共有した「ベース接地増幅回路」
- コレクタを共有した「コレクタ接地増幅回路」
があります
※コレクタ接地は一般的には「エミッタフォロワ」と呼ばれます
「エミッタ接地回路」は増幅回路の基本
エミッタを「共通」とした増幅回路で
トランジスタ増幅回路では、最もよく使われる回路のひとつです
これは、最も簡単な「エミッタ接地回路」です
「なんだかよくわかりません」という方、大丈夫です
これから順番に説明を交えて、回路動作を見ていきます
回路を構成する部品について
回路の部品について考えてみましょう
まず、V2は電源です(15V)
電源がないとトランジスタは動きません
V1は増幅したい信号源です(交流)
電波も、音楽プレーヤーの出力も
アナログ回路で扱う信号は、交流信号です
R1は「負荷抵抗」を想定して入れてあります
実際には、出力側につなぐ「回路や機器」ですね
R3は「入力信号源」の抵抗です
これも、入力側の「回路や機器」を想定したものです
そして、増幅回路として重要な部品は、以下の部品です
コンデンサー(C1・C2)
入出力にある「コンデンサー」は直流をカットして、交流を通す部品です
増幅回路は、電源として「直流」が印加されますので
一つは、増幅回路の「直流が、入出力側に影響を与えない」ためです
また、入出力側の「直流で、増幅回路が影響を受けない」ためでもあります
コレクタ抵抗(Rc)
⊿Icをコレクタ抵抗(Rc)で「出力電圧」として取出します
出力電圧=V2-(⊿IcxRc)
※「⊿」は変化量という意味です
トランジスタはベース電流変化(⊿Ib)、ベース電圧変化(⊿Vbe)を、大きなコレクタ電流の変化(⊿Ic)に変えます
コレクタ電流の変化量(⊿Ic)は、⊿Ibxhfe(同時に⊿Vbe x gm)です
※hfe:小信号電流増幅率、gm:相互コンダクタンス
hfeとhFEは本来違う考え方ですが、ここでは、hfe≒hFEと考えます
hFEとかgmってなんぞやという方
トランジスタの基本は、こちらに書きましたので、どうぞ!
バイアス抵抗(R2)
増幅回路は「微小な信号」や「交流の負の部分」でも動作させるため
無信号時でも「ある程度Icを流します(アイドル電流)」
R2は、アイドル電流をながすため、ベースに「バイアス」を与える抵抗です
簡単に回路動作を見る
それでは、入力から出力まで、順を追って回路動作を見てみましょう
それでは、細かいところはおいておき、信号の流れを見てみましょう
- V1(入力信号)がコンデンサ「C2」に印加されます
- 「C2」で入力信号の「交流成分のみ」取出します
- 入力の交流成分がベースに印加されます
- ベースに印加された信号は、hfe倍(gm倍)のコレクタ電流(Ic)を流します
- コレクタ電流(Ic)を抵抗(Rc)で電圧に変換します
- 「C1」で出力信号の直流をカットして、「交流成分のみ」取出します
- 負荷(R1)に増幅された交流信号が出力されます
- 出力波形は入力波形とは逆の形(逆相)になります
なるほど!
部品の役割と、信号の流れを追ってみると、
意味不明だった「回路図の意味」がなんとなく見えてきましたね
それでは、この増幅回路、どの位の「ゲイン」なんでしょう?
ゲインはどのくらい?
増幅度(ゲイン)はどの位でしょう?
計算にあたり、回路図の部品を「一般的な名称」にしました
また、簡単になるように、入力の振幅は±1mVにしました
本当は、等価回路などを学ぶのが良いのでしょうが
それは、またの機会にして、式だけズバリ書きます
この回路のゲインは
hfe≒hFE=300
Rc<<RL なので、R=Rc=2KΩ
rπ=300/(40x4mA)=300/0.16=1875
(300x2000)/(10+1875)
≒318
1mV→約300mVになっていますので、概ねあっていますね
※もし、RL=10KΩだったら
R=2K//10K=1.67KΩですから
(300x1670)/(10+1875)≒266
RsやRLが大きくなると、ゲインが減る
Rsの値が200KΩ、RL10KΩだとしたら・・・
この回路のゲインを計算してみます
hfe≒hFE=300
R=Rc//RL なので、R=2KΩ//10KΩ≒1.67KΩ
rπ=300/(40x4mA)=300/0.16=1875
(300x1.67K)/200K+1875
≒2.48
信号源抵抗(Rs)や負荷抵抗(RL)の値で
ゲインが変わります
Rs=10Ω・RL=1MΩの回路では、ゲイン318倍
Rs=10Ω・RL=10KΩの回路では、ゲイン266倍
Rs=・RL=10KΩ200KΩの回路、ゲイン2.48倍
バイアスと動作点
実は、この「バイアス」が増幅回路では非常に重要です
最初の回路で、試しに「R2を取って」入力信号を印加してみます
出力は0ですね・・・
トランジスタは、ベースーエミッタ間電圧(Vbe)が0.6V前後になると
コレクタ電流(Ic)が流れますが・・・
逆に言えば、Vbe<0の場合はIcが流れないといえます
入力信号によって「Vbeが0.6Vに満たない」ため、Icが流れないのです
それでは、0.6Vを超える入力(1V)にしてみます
入力波形の「プラス側の0.6V以上」の部分だけ、Icが流れます
それ以下(マイナス側も含む)では、Icが流れず、波形が原型をとどめていません
これでは、増幅回路とは呼べないですね
R2を入れた回路で、シュミュレーションした波形をみてみます
確かに、キチンと入力信号が増幅されていますね
エミッター接地では、入力波形と出力波形は逆相(反転増幅器)です
固定バイアス回路
この回路ではバイアスを作る仕組みが「1本の抵抗(R2)」だけです
能動的に「バイアスの電圧(電流)が変わらない」
このようなバイアス回路を
固定バイアス回路といいます
固定バイアスでは
無信号時「R2」に流れる電流が、hFE倍されて「Ic」になります
Ic={(V2-0.6)/R2}xhFE
任意のIcになるようにR2を選びます
動作点を決める
バイアスが重要なことはわかりました。
では、どの位コレクタ電流(Ic)を流せば良いのでしょう?
信号が印加されると、IcやVceも変化します
Icが多すぎ/少なすぎると、増幅動作時に出力が頭打ち(クリップ)してしまいます
無信号時の「IcとVce」を「動作点」といいます
動作点=増幅動作の中心
コレクタ側では、動作点を中心に、波形の振幅が「上下に発生します」
動作点を決めるのには、負荷線(load line)が役立ちます
トランジスタのデータシートなどに掲載されている(IcーVce)特性図などでも良いのですが、今回は解りやすいよう、ステップ・シュミュレーション出力に引いてみます
電源電圧(V2)・コレクタ抵抗(Rc)の場合
- 横軸(Vce):電源電圧(V2)→ これはIc=0のVce値
- 縦軸(Ic):V2/Rc → これはVce=0のIc値
に直線を引きます
横軸:電源電圧=15V
縦軸:15V/2KΩ=7.5mA
に直線を引きます
出力電圧は、Ic特性とRcにより負荷線上を動きます
Vceが0に近くなると、hfeが急に小さくなり、歪が多くなります
また、Vceは最大で電源電圧までです
負荷線に示した青丸付近が、大きな振幅が取り出せる場所です
赤丸の位置にアイドル電流を流すと、上下どちらかの振幅が早く頭打ちになります
負荷線の「青丸付近のIc値」を式に代入
Ic={(V2-0.6)/R2}xhFEなので
R2={hFE(V2-0.6)}/Ic
Ic=4mA、V2=15V、hFE=300なら・・・
R2=(300x(15-0.6))/0.004
=4320/0.004=1080000
≒1MΩ
固定バイアスの問題点
固定バイアス「エミッタ接地」は、簡単で理解しやすいのですが
実用の増幅回路として「使いにくい」要素がおおいのです
ゲインが固定
固定バイアスの「エミッタ接地」増幅回路では
ゲインがhFEによって変わります
トランジスタのhFEは、個体差が大きく
そのため、増幅回路のゲインも大きく左右されます
また、ゲインが大きすぎます
バイアス抵抗(R2)がhFEよって変わる
バイアス抵抗もhFEごとに変えなければなりません
今回は1MΩでしたが、高抵抗には微妙な値が存在せず
Icを希望の動作点にすることが困難です
(素子のバラツキに弱い=再現性の低い回路)になりやすい
仮に、希望の抵抗値があったとしても、量産などで
マッチングを行うことは不可能に近いです
温度でコレクタ電流が変動する
真空管などと違い、トランジスタは温度に非常に敏感です
固定バイアスでは、「動作点」が温度変化によって容易に変動します
それどころか、大きな電流を扱う回路では、発熱によってIcがどんどん増加して
最悪トランジスタが破損します(熱暴走)
歪が多い
先程の回路シュミュレーションですが、入力を10mVにしました
出力波形をよく見てください
波形が上下非対称ですよね、明らかに歪んでいます
歪み率はなんと!、8%位あります
シュミュレーションが間違っているわけではありません
こちらは、ブレッドボードで組んだ回路で「実測」した波形です
波形の大きさは違いますが、シュミュレーションと同じように下側が伸びています
固定バイアスでは、歪を減らす「フィードバック」等の技術は何もありません
必然的に歪が多めです
参考:信号源抵抗(Rs)と入力抵抗(rπ)
※この項目、ちょっと難しいかもしれません(初心者の方は読み飛ばし可です)
このシュミュレーションの出力波形を見てください
先程の結果と違い、上下端ともほぼ同じ電圧まで振れています
目視でも、歪が少ないとわかります(それでも、歪率は1%です)
バイアス抵抗も、トランジスタも、動作点まで全く同じです
何が違うのでしょう?
実は・・・
「信号源抵抗Rs」が大きくなっています
これは、あくまで一つの例ですが
信号がベース・エミッタ間に印加される場合
(エミッタ接地かベース接地の場合)
※rπ=トランジスターの(小信号的に見た)入力抵抗
「信号源抵抗Rs」が「入力抵抗rπ」に比べて非常に大きい
定電流信号源でトランジスタをドライブ=歪が少ない
IbとIcの関係は、非常にリニアです
「信号源抵抗Rs」が「入力抵抗rπ」に比べ非常に小さい
定電圧信号源でトランジスタをドライブ=歪が多い
VbeとIcの関係は、非直線的です
※これは増幅回路で異なります
差動回路やエミッタフォロワでは「定電圧的ドライブ」の方が低歪です
※実際にはRs200KΩはかなり大きな値で、現実的ではないのですが
トランジスタは「ドライブ条件」で歪率が変わることが判ります
これは、固定バイアスに限りません
実際には、歪率1%のアンプで音楽を聞いても、歪んでいるようには聞こえないでしょう
ただ、アンプの入力に抵抗200KΩは、大きすぎですが・・・
まとめ
エミッタ接地増幅回路は
- 「エミッタ」を共有(共通・接地)した増幅回路です
- トランジスタの増幅回路では、ポピュラーな回路です
- ベースに印加された信号を増幅し、コレクタから出力します
- 出力波形は入力波形の「逆相」になります
- 増幅回路を正常動作させるため、「バイアス」が必要です
- バイアスによって流すコレクタ電流を「アイドル電流」といいます
- アイドル電流の最適値は、「負荷線」から推定できます
- 固定バイアス回路は、抵抗1本で構成できます
固定バイアス抵抗の計算
Ic={(V2-0.6)/R2}xhFE
固定バイアス回路は、簡単で増幅回路の基礎を学ぶには適しています
しかし、多くの問題があり、実用の増幅回路にはあまり使われない
- ゲインが固定、hFEに左右される
- バイアス抵抗をhFEごとに変える必要があり、現実的ではない
- 温度変化による「コレクタ電流変動」を補償できない
- 自己発熱からの「動作点不安定」や「熱暴走」の危険がある
- フィードバック等がないため、歪がメチャ多い
次回の投稿では、「ゲインやIcを任意に決められ、温度変化に強い」
実用的な「エミッタ接地」について、書きたいと思います