前回制作した「昭和レトロHPA」が、思った以上に良い感じでしたので
せっかく自作ヘッドホンアンプを作るのでしたら、簡単な回路かつ性能(聴感)も良いものができないかと・・・
パーツや回路を少し現代的に改良してみました
回路規模も、前回同様「小型のブレッドボード」に収まるくらい(片チャンネル)です
回路図
今回のヘッドホンアンプ回路図です
改良点などは下記にまとめました
部品表
注:片チャンネル分の部品表です
C1 | 330pF | 1 |
C2 | 10μF(ES) | 1 |
C3 | 220μF(OSコン)※180μFでも可 | 1 |
C4、C5 | 100pF | 2 |
C6、C7 | 0.1μF | 2 |
C8 | 1000μF(ES) | 1 |
パスコン | 33~100μF(各電源レーン) | 2 |
パスコン | 0.1μF(各電源レーン) | 2 |
LED | 赤色(VF≒2.0V位) | 1 |
Q1 | 2SK2881または2SK2880(D/Eランク) | 1 |
Q2、Q6 | 2SA1015 | 2 |
Q3,Q4,Q5 | 2SC1815 | 3 |
R1 | 10KΩ | 1 |
R2,R10,R19 | 1KΩ | 3 |
R3,R4 | 47KΩ | 2 |
R5 | 330Ω | 1 |
R6 | 220Ω | 1 |
R7 | 4.7KΩ | 1 |
R8 | 100KΩ | 1 |
R9 | 470Ω | 1 |
R11 | 2.2KΩ | 1 |
R12 | 270Ω | 1 |
R13 | 560Ω | 1 |
R14,R15 | 100Ω | 2 |
R16 | 150Ω | 1 |
R17、R18 | 10Ω | 2 |
RV | 2KΩ 半固定抵抗 多回転型 | 1 |
※電源部分が必要です(こちらはLR共用でOK)
- 24V ACアダプタ/ジャック
- 2200μF/25V以上
その他必要なもの
デジタルテスター
測定に必要です、安価なものでOKです
他には・・・
- 5PINブレッドボード(あるはユニバーサル基板)
- ステレオジャック
- PINジャック
- ACアダプタ用ジャック
- 配線材
- 100円ショップのステレオイヤホン(テスト用)
組立を行うための工具
- ニッパー
- ラジオペンチ
- ピンセット
- ハンダゴテ(ハンダ付けの場合)
- ハンダ(ハンダ付けの場合)
などが必要です
参考資料:前回のHPA回路図
前回の「昭和レトロHPA」回路図です
改良ポイント
本回路の改良点です
- 初段にFETを使う
- 2段目の負荷に定電流回路(能動負荷)
- バイアス回路にトランジスタを使う
- 終段を純コンプリ回路に変更
- その他(現代的な部品の採用)
1:初段にFETを使う(NPNトランジスタも可)
FET(電界効果トランジスタ)は、特にDCアンプなどの近代アンプ初段に使われた部品です
アタック感のあるFETと、柔らかなトランジスタ・・・この辺は完全に好みだと思います
FETと言っても、品種により「音質」にはかなり違いがあります
現行品で入手が容易なリード品のは、イサハヤ電子の2SK2881、2SK2880でしょうか、本機はどちらも使用可能です
今回は、初段にFET2SK2881を使いました。
初段の電流が2mA程度あるので、ランクはDかE(GR/BL相当品)を使ってください
その他のFETは動作する?
当方で動作したFETを載せておきます
- 2SK2881/D・E
- 2SK2880/D・E
- 2SK30A/GR
- 2SK117/BL
- 2SK170/BL
- 2SK246/BL
※2SK246(BL)は、終段の動作点が若干ずれますが、通常動作に問題ありません
※トランジスタ(2SC1815等)も動作します
<ご参考>試験をしていないが、動作しそうなFET
チップ品に抵抗がない方は2SK208(K30チップ品)、2SK209(K117相当品)なども大丈夫でしょう(試してませんが・・・。)
- 2SK208/GR(チップ品)
- 2SK209/GR・BL(チップ品)
- 2SK880/GR(チップ品)
- 2SK879/GR(チップ品)
- 2SK303/V5
他にもNchのJFETで、IDSS>3mA以上あれば動作可能?かもしれません
海外のFETは手持ちがないので、実験しておりません
2:2段目の負荷に定電流回路(能動負荷)
2段目のPNPトランジスタ(2SA1015)の負荷に定電流回路を使いました
メリットはこんなところです・・・
- エミッタ抵抗が不要(2段目のゲイン増加)
- エミッタ抵抗のバイパスコンデンサーが不要(安定性向上)
- コレクタ抵抗が大幅増加(2段目のゲイン増加)
ヘッドホンアンプとしての電圧利得は、2段目で有り余るほど稼いでいますので、初段で利得があまり無い素子(K30やK246)などを使っても、十分実用になります
3:バイアス回路にトランジスタを使う
バイアス回路をダイオードからトランジスタに変更しました
最終段のトランジスタのエミッタ抵抗を「10Ω→0.47Ω」などにしたい場合、熱暴走を防ぐため、バイアス回路を終段の石に「熱結合」する必要があります。
その場合には、フルモールドタイプ(2SC3423など)トランジスタを使えば、終段の石に熱結合し易くなります
今回の回路は(TC015/TTA008)エミッタ抵抗が、10Ωですから、熱結合は不要です
4:終段を純コンプリ回路に変更
終段回路を「コンプリペア」を使った「純コンプリメンタリー」回路にしました
前回のレトロな味の一つ「準コン」回路ですが、安定性や歪特性などは、コンプリペアを使った「純コン」回路に劣ってしまいます
レトロ作品ではなく、普通に実用性のある「ディスクリート・ヘッドホンアンプ」としての回路に変更しました
5:その他(現代的な部品の採用)
現代の高性能部品を一部で使いました
C3(初段のエミッタ抵抗バイパスコンデンサー)をOSコンにしてみました
OSコン(有機高分子系コンデンサー)は、他の場所に使うと「クセ」が気になる場合もありますが、今回は良い感じです(220μFが入手できなかったので、180μFです)
他にも「薄膜高分子積層コンデンサー(PMLCAP)」(面実装品)などは、無極性で10μF以上の容量があります、入力コンデンサーや、出力コンデンサーにパラに入れるなど、使えそうです
セラミックコンデンサーも、C0品、C0G品などはオーディオ分野でも使えそうです
セラコンの件は、ca3080さんのページ「通電してみんべ」で教えていただきました、他にも色々と「音関連」の面白いアイデアをお持ちです
こちら、コンデンサの記事で書かれています
ブレッドボードで試作しました
今回も、ブレッドボードを使って試作機を作りました
片チャンネル分です、ステレオ再生には2組必要です
初段をトランジスタにする場合の配線図です
電源は上下2系統ありますが、普通に分岐した配線をつないで大丈夫でした
配線図に電源のケミコンは入ってませんが、2200μF位の容量を入れてやればOKです
この辺は好みですね、容量を増やすもよし、減らすもよしです
試作では、長いタイプのブレッドボードを使い、手前側にケミコンを入れています
大きな容量のコンデンサーは少々離れていても効くので、電源部分だけ別基板にするのが、スマートでしょうか
制作のポイント
今回の制作で注意したポイントをまとめました
FETとトランジスタのピン配列
FETとトランジスタのピン配列(足の配列)が違います
文字面からみて
- トランジスタ(E・C・B)
- FET(S・G・D)
機能的な対応は「E=S」・「C=D」・「B=G」です
※足をひねってしまう方法もあります
LED
定電流源の基準電圧にLEDを使っています
LEDは「VF≒2Vくらい」のものを使います、具体的には、赤系、橙系のLEDです
青、白、高輝度などはVF≒3.3Vくらいありますので、2段目の電流が増えてしまいます、シュミュレーション上では、5~6mA位に増加します
問題はなさそう(シュミュレーション上ではOK)ですが、実際に試してはいません
測定と調整
回路が組み上がりましたら、測定と調整をします
「出力コンデンサーのトランジスタ側」とGND間の電圧を測ります
配線図の「27レーン」と電源の「マイナス」間の電圧です
(写真では17レーン)
大体12V前後であればOKです
もし、0Vや24V近くの場合は、どこか配線が間違っています
参考:FETの品種によって若干電圧の違い(バラツキ)がある場合があります
当方での実測
- 2SK2881/E ≒12.3V
- 2SK2880/D ≒12.3V
- 2SK117/BL ≒12.4V
- 2SK170/BL ≒12.2V
- 2SK246/BL ≒14.7V
- 2SC1815 ≒11.3V(トランジスタ)
2SK246は15V近くになりますが、実用に問題はあまりなさそうです
「出力コンデンサーのHP側」とGND間の電圧を測ります
配線図の「29レーン」と「電源マイナス」間の電圧を測ります
(写真では15レーンです)
ここは、必ず0V(5mV以下)である必要があります
ここに、直流電圧が出ていると、最悪ヘッドホンが焼けます
※出力コンデンサーがあるので、直流漏れは無いと思いますが、配線ミスや部品不良の可能性もあります、必ずチェックしましょう
終段の電流を調整する
配線図の「27レーン」と「29レーン」間(10Ω両端の電圧)を測定します
RVを回し約200mV前後に調整します
(写真では、17-19レーン間の電圧です)
200mV=20mAのアイドリング電流が流れるようにします
多すぎると、発熱が多くなります、少ないと歪みが増えます
※調整できない場合、または異常に電流が多い(100mA=1V近くある)場合などは、配線ミスの可能性があります
しばらく、様子をみて終段のトランジスタの温度を見ます
正常なら、20mA程度のアイドリング電流では、触れないほど熱くならないはずです
100円イヤホンを接続して視聴してみる
入力をつないで、電源を入れて、100円ショップなどのイヤホン(最悪、壊れても良いもの)で視聴して、正常に聞こえるならOKです
波形等を測定してみました
100KHzの矩形波(方形波)です
オーバーシュートなどもなく、良好です
簡易ネットワークアナライザー(ゲインと位相)
0dBで位相は97度位です
制作後記
差動回路を使わない、EE帰還タイプのヘッドホンアンプを2台作ったわけですが
どちらもオペアンプなどを使ったものより「音が素直」な気がします
確かに、オペアンプに比べて「歪率」などは足元にも及びませんが、実際に音楽を聞いてみると、「人の好みは数値だけではない」と実感します
今のところ、ブレッドボードに組んだ「バラック状態」ですが、基板を起こしてケースに入れたいと思うこの頃です
ご興味があれば、ぜひお試しください