今回は、ゲインやコレクタ電流が「任意」に決められる「電流帰還バイアス」のエミッタ接地回路です
「固定バイアス」のエミッタ接地回路は、基本中の基本ではありますが
いろいろと難点が多く、実用には今ひとつでした
「電流帰還バイアス」は、「固定バイアス」の不都合がほぼ解消された、実用的な回路です
前回投稿はこちらをどうぞ・・・
トランジスタの基本は、こちらで書いています
オームの法則について、知りたい方はこちらです
ゲインやコレクタ電流を自由に決めたい
トランジスタの、エミッタ側は定電流動作です
エミッタ抵抗(Re)を組み合わせると、「コレクタ電流(Ic)を任意に決める」ことができます
※詳しくはこちらで書きました
では、エミッター接地回路に、コレクタ抵抗(Rc)とエミッタ抵抗(Re)を両方入れたら・・・
電流帰還バイアス回路です
これは、コレクタ電流(Ic)を任意に決められる増幅回路になります
そして、それだけではなく
- ゲインをhFEとほぼ関係なく、RcとReの抵抗比で決められる
- 温度変化によるIc変動や熱暴走を抑える
- 歪が大きく減る
など、固定バイアス回路の不都合が、ほぼ解消された
実用的な増幅回路になります
電流帰還バイアス回路とは
「電流帰還バイアス」のエミッタ接地回路です
固定バイアスと比較して
- エミッタ抵抗(Re)
- ベースのバイアスを作る分圧回路(RAとRB)
が追加されました
固定バイアス回路に「たった2本の抵抗」を追加しただけですが
固定バイアスから、大幅に進化しています
固定バイアスの「使いにくさ」が解消されただけでなく、実用回路としても、十分な性能を持っています
電流帰還バイアスの「各部動作」を見てみる
それでは、回路の働きをザックリ見ていきましょう
①トランジスタが働くためには、ベース・エミッタ間電圧(Vbe)が0.6V位必要です
そのため、ベース電圧(VB)は
VB= Ve+Vbe≒ Ve+0.6
の電圧を印加しなければなりません
この回路では、VB=2.6V、Ve=2.0Vです
②トランジスタのエミッタ抵抗(Re)で、エミッタ電流を決めています
エミッタ電流(Ie)≒ コレクタ電流(Ic)ですから
同時にコレクタ電流(Ic)が決められているといえます
この回路ではRe=1KΩ、Reの電圧(Ve)約2Vですから
Ie≒Ic=2mA
③VBは抵抗「RAとRB」の分圧で作っています
Icが流れるということは、ベースに「Ic/hFE」の電流が流れるわけです
VBがベース電流で影響を受けないためには
RAとRBを流れる電流(Ibias)は、ベース電流(Ib)の10倍以上
この回路では、Ibias≒1.23mA、Ibは7μA位です
(hFE300、Ic=2mAとして計算)
十分条件を満たしています
④RcによってIcの変化を電圧に変え、出力します
出力=V2-(⊿IcxRc)
この動作自体は固定バイアスと同じです
ゲインは、およそ(-Rc/Re)
電流帰還バイアスのエミッタ接地回路では
Rc<<RLならば、ゲインはおよそ
–Rc/Re(倍)
になります
RLを考慮するならR=Rc//RLとして
–R/Re(倍)
※ゲイン倍された逆相という意味で「式にマイナス」がついています
「<<」は非常に大きい、「//」は抵抗の並列和を表します
電流帰還バイアスのゲインは、トランジスタのhFEに「ほぼ関係なく」決まります
シュミュレーションで見てみましょう
入力は1Vです、RLが大きいため、ゲインは
Rc/Re=3、逆相です
出力は、ほぼ3Vまで振れています
では、Rc=6KΩ、Re=2KΩにしてみます
これでも、Rc/Re=3ですから、3倍の反転増幅回路のはずです
ご覧の通り、きちんと3Vの振幅が出力されています
2つの回路のゲインは同じです
しかし、アイドル電流は異なっています
上の回路(Rc=3KΩ、Re=1KΩ)では、Ic≒2mA
下の回路(Rc=6KΩ、Re=2KΩ)では、Ic≒1mAです
歪率も改善されている
固定バイアスの場合、Rs=10Ωでは、8%もの歪がありました
これは、波形を目で見ただけで判るくらい歪んでいました
こちらは、同じRs=10Ω、電流帰還バイアスでの歪率です
なんと、0.2%まで改善されています
これは、エミッタ抵抗(Re)によってフィードバック(電流帰還)がかかるためです
このため、歪率が大幅に改善されます
「電流帰還バイアス」は、その名前の通り、電流帰還を使ったバイアス回路です
hFEは無くなったのではなく、Reによって「フィードバック」されていたのです
Reにより、トランジスタの入力抵抗(rπ)が非常に高くなります
実質、電流帰還バイアスの「回路としての入力インピーダンス」は
RA//RBとほぼ等しくなります
電流帰還バイアスの入力インピーダンス
22KΩ//4.7KΩ≒3.9KΩ
固定バイアスの入力インピーダンス
300/40x0.004=1.9KΩ(hFE300,Ic4mA)
300/40x0.01=750Ω(hFE300,Ic10mA)
※固定バイアスの入力インピーダンスが、hFEやIcに依存して変化するのに対し
電流帰還バイアスでは、Icが大きくなっても、ほぼ同じ値です
電流帰還バイアスの「増幅動作」を見てみよう
それでは、電流帰還バイアスでの「増幅動作」を見てみましょう
まず、無信号時を見てみましょう
解りやすいように、VB=2.6V、Ve=2.0Vとし、Ie=Ic、Vbe=0.6V一定とします
今、Ic=2mA流れています(Ve/Re1)
Rcの電圧降下(Vc)は3Vですから
出力は、15-3=9Vです
入力が1V増えると・・・
入力が(+1V)増加します
すると、各電圧、電流は次のように変化します
※Vbe=0.6Vで一定、Ie=Icと考えます
- 入力電圧が1V増加します
- VBが2.6V→3.6Vになります
- Vbe=0.6Vですから、Veは2.0V→3.0Vになります
- エミッタは定電圧動作ですから、IeとIcは2mA→3mAになります
- Vcが6V→9V、出力は15-Vcですから、9V→6Vになります
- 出力は無信号時より、-3V変化します
この回路のゲインはRc/Re1=3、逆相です
入力1V増加で、出力は3V減少します
入力が1V減少すると・・・
入力が(-1V)減少します
すると、各電圧、電流は次のように変化します
※Vbe=0.6Vで一定、Ie=Icと考えます
- 入力電圧が1V減少します
- VBが2.6V→1.6Vになります
- Vbe=0.6Vですから、Veは2.0V→1.0Vになります
- エミッタは定電圧動作ですから、IeとIcは2mA→1mAになります
- Vcが6V→3V、出力は15-Vcですから、9V→12Vになります
- 出力は無信号時より、+3V変化します
この回路のゲインはRc/Re=3、逆相です
入力1V減少で、出力は3V増加します
ゲインがRc/Reで決まる理由
※⊿Ie=⊿Ic、Vbeは一定、Ic=Ie、またRc<<RLとして
入力の電圧変化=⊿Vi、出力の電圧変化=⊿Voとすれば
ゲインは⊿Vo/⊿Viです
Vbeは一定と考えれば
⊿Vi=⊿Ve(Viの変化はそっくりVeの変化)
そのため、⊿Ie(エミッタ電流の変化)は
⊿Ie=⊿Ve/Re=⊿Vi/Re
この式を変形すると
⊿Vi=⊿IexReです
⊿Vo=-(⊿IcxRc)ですから
ゲイン=⊿Vo/⊿Vi
= -(⊿IcxRc)/(⊿IexRe)
⊿Ie=⊿Ic、Rc<<RLなら
ゲイン=⊿Vo/⊿Vi=-(Rc/Re)となります
hfeがあまり大きくない場合
実際のゲインは(-Rc/Re)より「少し小さく」なります
hfeが大きくなれば、(-Rc/Re)に近づきます
回路の設計自由度を上げる
ゲインが5倍の増幅回路を作ります
電源15Vで、VB≒2.6Vとし、Ve≒2.0Vにします
Ic≒2mAにしたいため、Re=1KΩにします
ゲイン5倍なので、Rc=5KΩにします
ここまでは、順調なのですが
入力に1Vの信号を入れます、すると・・・困ったことが起こります
本来なら、約5倍されて±5V位のピークが出力されるはずですが・・・
歪んでしまっています
これは動作点(増幅の中心)が不適切なせいです
Vcの下端が、Veの上端に達して「クリップ」しています
これでは、きちんと入力信号が増幅できません
「動作点」と「ゲイン」を別々に設定する
電流帰還バイアスでは、「動作点」と「ゲイン」がReとRcによって決まります
これは、「動作点」を動かすと、「ゲイン」も変わるわけです
ついでに言えば、Icも変わり、VBと電源電圧も一枚噛んでいます
これは困ります、せっかく固定バイアスの欠点を克服したというのに・・・
ですが・・・必殺技があるのです
こちらを御覧ください
ゲイン5倍、Ic≒2mA、電源電圧15Vです
さっきの回路の仕様と変わらないのですが
1Vの入力をほぼ5Vに増幅できています
実は、Reをコンデンサーで分割しています
コンデンサーは、交流を通し直流をカットします
コンデンサの交流抵抗は(100μF・1KHz)「ほぼ0」です(1/(2πfC)≒1.6Ω)
そのためエミッターの抵抗は・・・
直流的に見ると、Re2+Re1=1KΩです
交流的に見ると、C3でRe1がバイパスされますから、Re2=600Ωです
つまり、直流(動作点、Ic)と交流(ゲイン)を別々に設定できるのです
Icの値:Ve/(Re1+Re2)≒2V/1000≒2mA
ゲイン:Rc/Re2=3K/600=5
動作点とゲインを別々設定した結果
Vcの下端に余裕ができました
これで、正常に増幅動作を行わせることができます
まとめ
電流帰還バイアス回路は、エミッタ抵抗(Re)を追加することで
性能や使い勝手の向上したバイアス回路です
エミッタ抵抗(Re)により
- Icをある程度自由に決められます
- 温度変化によるIcの変動を補償
- 歪みが低減
など、固定バイアス回路の不具合を、ほぼ解消した実用的な回路です
ゲインは大体(-Rc/Re)になります
ベースバイアスは、抵抗分圧(RA・RB)によって作りますが
バイアス電流はベース電位が不安定にならないよう、十分(Ibの10倍以上)流します
Reをコンデンサーで分割することで、
直流(Icや動作点)と交流(ゲイン)の値を、ある程度自由に設計できます