前回までは、エミッタ接地回路について書きました
今回は、トランジスタの「コレクタ」を共有した増幅回路
コレクタ接地について書きたいと思います
コレクタ接地回路は、一般的には「エミッタフォロワ回路」と呼ぶことが多いです
エミッタフォロワとは、どんな回路?
一般的な「エミッタフォロワ回路」(コレクタ接地)です
エミッタフォロア(コレクタ接地)回路の特徴
- トランジスタの「コレクタ」端子が「共通(GND)」の増幅回路です
- 入出力は同じ波形(同相)になります
- 電圧利得は1倍より、小さくなります
- 電流利得は(1+hfe)倍になります
- 入力インピーダンス(ベース)は、とても大きい
- 出力インピーダンス(エミッタ)は、とても小さい
これだけ見ても、わかりにくいので、順を追って見ていきましょう
まずは、エミッター接地と比べてみます・・・
エミッタフォロアは
- エミッタ側から出力を取出している
- コレクタ抵抗がない
一見、エミッタ接地と「あまり変わりない」ように見えます
「コレクタを共有」といっても・・・何かエミッタを共有しているように見えます
実は、交流的(信号)にみると、「電源は短絡(ショート)と同じ」です
わかりにくいのですが、この図の経路で、電源を通してコレクタが共有されています
エミッタフォロワでは、信号は「ベース/コレクタ間」に入力されます
エミッタフォロワの波形を見てみよう
入力と出力の波形を、シュミュレーションで見てみましょう
トランジスタの入力(ベース)と出力(エミッタ)です
全く同じ波形が、少しズレて出力されています
エミッタ接地と違い、出力は同じ向き(同相)です
今度は、入出力の信号を「交流として」を比較してみましょう
歪率は0.1%で、すごく良いのですが
どちらも同じ大きさの振幅です・・・
つまり、エミッタフォロワは、1倍の増幅回路?・・・
※(正確には「1倍よりやや小さく」なります)
これって増幅回路なんでしょうか?
実は、増幅回路では
電圧を大きくする「電圧利得」と
電流を大きくする「電流利得」
があります
エミッタフォロワでは
電圧利得<=1.0倍ですが
電流利得=(1+hfe)倍です
エミッタ接地の弱点=出力インピーダンスが高い
単純に比べてみると、エミッタ接地のほうが、
「電圧と電流」両方増幅できて、何か「オトク」な感じです
「エミッタフォロアって、電圧増幅は1倍だし・・・」
「別にエミッタフォロワ、いらないんじゃない?」って思いますよね
実は、万能に見える「エミッタ接地回路」には、いくつか弱点があります
その一つが
出力インピーダンスが高い
ということなのです
「インピーダンス」とは、「交流的に見た抵抗」のことです
※出力インピーダンスは、出力に入っている抵抗と考えてください
こちらを御覧ください
どちらも電圧利得は1倍です
負荷(RL)が大きい時は、どちらも1Vの振幅が出ています
しかし・・・
負荷(RL)が小さくなる(重くなる)と
エミッタ接地では、振幅が小さくなってしまいました
これは、トランジスタの「コレクタ側とエミッタ側」の動作が違うためです
エミッタ側は、電圧1Vの「定電圧動作」に対し
コレクタ側は、電流1mAの「定電流動作」です
負荷が大きい(軽い)場合、どちらも1Vの振幅が出力されます
しかし、負荷が小さい(重い)場合は次のようになります
これだと、出力電圧が減ってしまうことは判りますが
「出力インピーダンス」が高いという意味がわかりませんよね
そこで、エミッタ接地も「定電圧源」になおしてみます
このように、1Vの電圧源と「Rcが直列に入った」回路と同じになります
エミッタ接地のコレクタ側は、
「定電流源」で
Rc=1KΩ
RL=無限大(開放)のとき:電圧1V
RL=0Ω(ショート)のとき:電流は1mA
です
同じ条件で「定電圧源」にすると
RL=0Ωの時、Rc1KΩで、電流が1mAになるには
1KΩx1mA=1V
また、RL=無限大(開放)なら電圧1Vです
1Vの電圧源に「直列にRcが入る」わけですね
「エミッタフォロワ」ともう一度比較してみましょう
エミッタ接地は「電圧源」に対し、「Rcが直列」に入る形です
こうしてみると、
エミッタ接地の「出力インピーダンス」は高い
ことがよくわかります
また、エミッタ接地は、ゲインを上げる=(Rc//RL)を増やす
ことですから、出力負荷が小さい(重い)と不利です
実は、エミッタフォロワにも「出力インピーダンス」はありますが
すごく小さいので「ほぼ定電圧動作」というわけです
エミッタフォロワの「出力インピーダンス」
Rs//(RA//RB)=rs 、rπ=hfe/40Ic
とすれば、出力インピーダンス(Zo)は
Zo=(rs+rπ)/(1+hfe)
上記回路で計算してみます
rs≒10Ω:rπ=300/(13.2mAx40)≒568:hfe=300とすれば
(568+10)/301 ≒1.92Ω
※これは、Re//RL≒143Ωに対し
ほとんど問題ない値であることが判りますね
出力回路の定番「エミッタフォロワ」
エミッタフォロワは、回路の最後(出力段)によく使われます
エミッタ接地が「電圧増幅段」と呼ばれることに対し
出力のエミッタフォロワは「電力増幅段」と呼ばれたりします
電力は御存知の通り「電圧x電流」です
電圧を大きくする、電流を大きする →どちらも同じ電力を得られます
終段回路は外形の大きな素子を使ったり、放熱対策をするなど
いかにも「電力」といった「イメージ」なのかもしれませんね
「エミッタフォロワ」が出力段に使われる理由
大きな理由として
出力インピーダンスが低いこと
です、またエミッタフォロワは、同時にトランジスタの
ベース端子の「インピーダンス」がとても高い
ので、前後回路が「互いに及ぼす影響」を避ける事ができます
つまり、エミッタフォロワは・・・
入力インピーダンスがすごく高い
出力インピーダンスがすごく低い
これにより、前後段の回路が「互いに影響」しにくいのです
真空管の回路などに使われる「トランス」も、「インピーダンス変換」が目的です
例:エミッタ接地(10倍)→ 8Ωのスピーカーを鳴らす
スピーカーの「インピーダンス」がすごく小さいので、直接は不可能です
しかし、スピーカーの前に「エミッタフォロワ回路」を入れれば、問題なく鳴らすことができます
参考:エミッタフォロワの入力インピーダンス
エミッタフォロワのベース端子の交流的抵抗です
rπ=hfe/40Ic
R=Re//RLとすれば
入力インピーダンス(Zin)は
Zin= rπ+(1+hfe)xR
これは、トランジスタ「ベース」の交流的抵抗です
上記回路で計算してみます
hfe=300: R=500//200≒143Ω: Ie=Ic=13.2mA
(300/(13.2mAx40))+(301x143)=568Ω+43KΩ
≒43.5KΩ
ベース端子は、ものすごく高抵抗です
なので、入力信号から見た「回路のインピーダンス」は
43.5KΩ//RA//RB≒5KΩ
ほぼ「RA//RB」に見えるわけですね
また、「Reがあるエミッタ接地」もR=Reとすれば同じ式が使えます
Zin= rπ+(1+hfe)xRe
まとめ
エミッタフォロア(コレクタ接地)回路とは
- トランジスタの「コレクタ」端子が「共通(GND)」の増幅回路です
- 入出力は同じ波形(同相)になります
- 電圧利得は1倍より、小さくなります
- 電流利得は(1+hfe)倍になります
- 入力インピーダンス(ベース)は、とても大きい
- 出力インピーダンス(エミッタ)は、とても小さい
エミッタフォロワ回路は、このような特徴を生かして
負荷の影響を避けたい「出力回路」や、インピーダンス変換回路などに使われます
※次回は、いろいろな「エミッタフォロワ回路」を見ていきましょう