トランジスターは、ベース電流(電圧)によって、コレクタ電流をコントロールします
しかし、エミッタも同時に、コレクタ電流とほぼ同じ電流が流れます
一見、トランジスターに出入りする、電流の向きの違いだけに思えますが・・・
一体、どう違うのでしょう
トランジスターの構造などは、コチラの記事をどうぞ
トランジスターの
コレクタとエミッタには、決定的な違いがあります
トランジスターの
コレクタは「定電流動作」
エミッタは「定電圧動作」
コレクタは「定電流動作」
「定電流動作」とは負荷(抵抗)が変化しても、一定の電流を保つ動作です
実際にどんなふうになるか
ブレッドボードに回路を組んで実測しました
R2でベース電流を流します、Vbe≒0.6Vとすれば
ベース電流は(20-0.6)/2.2x106≒8.8μA
Icは1.14mA流れていますから、hFEはおよそ129です
コレクタ抵抗R1を変化させてデータをとってみました
(回路図にはありませんが、BーC間に発振防止C1500pFを挿入)
コレクタ抵抗を変えながら測定した結果のグラフです
10KΩまではICは水平で、一定電流であることがわかります
しかし、20KΩを超えると急にICが減少しました・・・
能動領域
トランジスターは「コレクタ・エミッタ間電圧(Vce)」がコレクタ抵抗(Rc)に合わせて能動的に変化し、一定の電流を保ちます(定電流動作)
今回の実験では、Rcが10KΩ以下の場合です
Vceが変化し「定電流動作」する範囲を「能動領域」と呼びます
「能動領域」にあるトランジスターのコレクタは、定電流源に近い動作をします
※能動領域では、ある程度Vceに電圧が印加される必要があります
能動領域ではトランジスターの
コレクタ側PN接合=逆バイアス
エミッタ側PN接合=順バイアス
になっています
能動領域は「増幅回路」などで使われます
能動領域では、hFE(hfe)の変化が少なく、コレクタ電流とベース電流の関係が
非常にリニアです(歪が少ない)
飽和領域
Rcが大きくなって「Vceが0Vに近づく」と、Vceの変化が徐々に頭打ちになります
この、Vceが0V付近で頭打ちになる領域を「飽和領域」と呼びます
今回の実験で、Rcが20KΩ以上の場合です
Vce≒0まで振れてしまっていて、Rcに電源電圧(20V)が直接印加される状態です
さすがに、Vceはマイナスにはならないので、ICはオームの法則にそって変化します
飽和領域ではトランジスターの
コレクタ側PN接合=順バイアス
エミッタ側PN接合=順バイアス
になっています
飽和領域は「スイッチング回路」などで使われます
Vce≒0V付近にすることで、コレクタ損失を少なくし
大きな電流を扱うことができます
トランジスターのスイッチング回路は、コチラで詳しく書きました
ICーVCE特性図
トランジスターのデータシートでは、多くの場合
「ICーVCE」特性図を見ることができます
ICが少ない時は、線が「ほぼ水平」です(定電流動作でインピーダンスが高い)
ICが増えると、定電流動作から徐々に離れていきます
これは、どのトランジスターでも同じような傾向があります
負荷線
トランジスターの「IcーVCE特性図」を使って
コレクタ抵抗(Rc)を入れた時の「Vce変化」を見る方法があります
この線を負荷線と呼びます
電源電圧(Vcc)・コレクタ抵抗(Rc)の場合
- A点:電源電圧(Vcc)→ これはIc=0のVce
- B点:Vcc/Rc → これはVce=0のIc
に直線を引きます
例えば・・・
A点:電源電圧=5V
B点:5V/32Ω≒156mA
A点とB点間に直線を引きます
Rc=32Ω時、トランジスターの「Vce」と「Ic」はこの負荷線上を動いていきます
増幅回路では、負荷線を参考に「取出す波形の中心(動作点)」を決めたりします
32Ω負荷では、Vceが小さくなると、Icの傾きが大きく「上下非対称」になりやすそうです
250Ω負荷では、Icの傾きがほぼ水平で、Vceを広い範囲で使えそうです
(2SC1815は、増幅回路で大体0.1mA~10mA前後で使われる事が多い)
エミッタは「定電圧動作」
コレクタ側の「定電流動作」に対し、エミッタ側は「定電圧動作」です
それでは、エミッタ側の動作を実験で見てみましょう
こんなふうに、ブレッドボードで配線を組みました
トランジスターは同じ2SC1815を使っています(hFE≒129)
ベース電圧(Vb)は抵抗R1とR2で分圧しています
(回路図にはありませんが、BーC間に発振防止C1500pFを挿入)
測定した回路図と測定結果のグラフです
Reが変化しても、Veはほぼ一定です
Ieが抵抗に合わせて変化すると、ベース電流(Ib)も変化します
Re=47Ωの場合、Ie≒40mA流れますが
hFE≒129ですから、Ibも310μA位必要です
Ieを流すためには、Ibが必要
トランジスターのIeを流すためには
Ic/(hFE+1)のIbが必要です
実験回路で、ベースのバイアス電流は
10V/(270+750)≒9.8mA流れています
Ibが0.31mA位流れても、バイアス電流の3%程度です
ベース電位(Vb)には影響ありません
しかし、バイアス電流が十分でない場合、Vbがズレてきます
Vbがズレれば、Veもズレます(Ve≒Vb-0.6ですので・・・)
R1とR2を10倍(7.5KΩ、2.7KΩ)とした場合のデータです
ベースバイアスは980μAしか流れていません
この回路でRe=47Ωとすれば
Ib≒300μA → これはバイアスの30%位に達し、Vbの電位がズレます
結果、Veが低下して、定電圧動作に影響がでました
Vbを正確に保つことが、定電圧動作のキモ
大きなエミッタ電流(コレクタ電流)を流しても、定電圧動作を維持するには
ベース電位(Vb)を正確に保ち、必要なベース電流を供給することです
バイアス電流を増やすことにも限界があるため
一般的には、ツェナーダイオードなどを使います
実際の定電圧電源などは、もっと複雑ですが、基本の考え方は同じです
任意のコレクタ電流で「定電流動作」させる
実験を通してトランジスターは
コレクタ側=定電流動作
エミッタ側=定電圧動作
であることがわかりました、これを応用すると
コレクタ側とエミッタ側は、実は、無関係ではありません
Ie=Ic+Ib
普通はIcはIbに対して非常に大きいので
Ie≒Ic
コレクタ電流は、ほぼエミッタ電流です
また、エミッタ側の定電圧作用で、
エミッタ抵抗(Re)一定 = エミッタ電流(Ie)一定
Ie≒Ic コレクタ電流(Ic)一定
そして、トランジスターが「能動領域」であれば
コレクタ側は「定電流動作(定電流源)」として機能します
つまり・・・
Ic≒(Ve/R3)=(Vb-0.6)/R3
そして、トランジスターが「能動領域」にあるなら
Rcが変化してもIcは一定です
ベース電位(Vb)とエミッタ抵抗(R3)を決めることで
任意にIcの値を決めることができます
これは、hFEとほぼ無関係です
まとめ
トランジスターの
コレクター=定電流動作(定電流源)【インピーダンス大】
エミッター=定電圧動作(定電圧源)【インピーダンス小】
トランジスターの定電流動作は
コレクターエミッタ間電圧(Vce)が変化する
「能動領域」で動作する
Vceが0Vに近づくと
ベース電流(Ib)を増加させても、コレクタ電流が比例増加せず
Vce変化が頭打ちになる=「飽和領域」
トランジスターの「コレクタ側」動作は、
負荷線を引くと、動作イメージが直感的にわかりやすくなる
トランジスター、エミッタ側の
「定電圧動作」はベース電位(Vb)を安定に保つことが重要
ベース電位(Vb)とエミッタ抵抗(Re)が決まれば
Icの値を任意に決めることができる
コレクタ電流(Ic)、ベース電位(Vb)、エミッタ抵抗(Re)とすれば
Ic≒(Vb-0.6)/Re
また、温度変化によるIc変動を抑制するため
1.5V<Ve<2.5V