前記事では、トランジスターの増幅作用を簡単な実験で確かめました
せっかくなので、その知識と、オームの法則で設計できる、実用的な電子回路、「トランジスターのスイッチング回路」作ってみたいと思います
オームの法則は、こちらのページで詳しく解説しています
トランジスターの構造や「hFE」などは、こちらのページが詳しいです
トランジスターのスイッチング回路とは
「増幅作用を持った電子スイッチ」です
「スイッチ」の名前の通り、マイコン出力などでON/OFFするわけですね
スイッチング回路は
①:トランジスターの増幅作用で、入力電圧/電流をより大きくすることができる
②:電子スイッチなので、メカスイッチに比べ、高速動作、高寿命
トランジスターやMOS-FETなど個別素子を使った「スイッチング回路」は
Arduinoなどの「マイコン」、74シリーズなど「デジタルIC」の出力増強に使われます
マイコンなどのデジタル回路は、3.3Vあるいは5V
マイコンやデジタルICの出力は、多くの場合3.3Vあるいは5Vです、電流も多く流せません
直接「モーター」や「リレー」といった負荷を駆動するには、全く力不足です
スイッチング回路を作る
それでは、実際にトランジスターのスイッチング回路を作ります
今回は、よく使われる「コレクタ側」に負荷を接続する回路にします
目的・仕様を決める
まず最初に、何をさせたいのかを決めます
目的は
74HCシリーズICの出力で、24Vリレーを駆動したい
目的が決まったら、具体的に電気的な仕様を決めます
74HCシリーズの出力は(5V・4mA)です
24Vリレーは、駆動に(24V・21mA)必要です
設計するスイッチング回路の仕様は
入力:5V・4mA未満で(電流は少ない程良い)
出力:24V・21mA以上(出力電流は大きいほど良い)
※そのための回路構成と、耐圧がある素子が必要
回路を選ぶ
仕様が決まったら、それを実現するための「回路」と「素子」を選びます
全体の回路イメージはこんな感じです
回路は、前述したコレクタ側に負荷を接続する「スイッチング回路」です
74HC00(NANDゲート)から出力を受けて
24Vリレーを駆動させます
抵抗:R1・R2の役割
下図のスイッチング回路で、R1・R2について考えてみましょう
R2の役割
「IN」に0.6V前後より、高い電圧がかかると
トランジスターQ1が「ON」になり、コレクタ電流が流れます
この時、抵抗R2が無いと、ベース電流が多量に流れ、トランジスターが破損します
これを防ぐたため、ベース電流を制限する役割がR2です
R1の役割
「IN」がオープン時でも、確実にOFFするようにR1を入れます
トランジスターは、わずか0.6V近くでONしますので、
R1でベースを「確実にGND電位」に引張っておくわけです
また、トランジスターがON→OFF時
コレクタ側PN接合に溜まった「電荷」を放電させる役目もあります
少しですが、OFFスピードが早くなります
R1は10KΩ~22KΩ位が一般的です
まとめると、こんな感じです
トランジスターを選ぶ
トランジスターは、負荷(リレー)の24V、21mA以上を十分満たすものが必要です
今回は2SC1815を選びました
2SC1815の絶対最大定格
- コレクタ・エミッタ間電圧 :50V
- コレクタ電流 :150mA
- ベース電流 :50mA
- コレクタ損失 :400mW(25℃)
hFEは100以上あれば十分でしょう
最低のhFEを限定するため、Yランク以上にします
コレクタ損失=VcexIc
トランジスターの「コレクタ(C)ーエミッタ(E)」電圧(Vce)
とコレクタ電流(Ic)の積で、これは全て熱になります
2SC1815は、十分ベース電流を流せば
Ic=20mA前後では、Vce≒0.1V位です
仮にVce=0.5Vとしても
0.5Vx21mA ≒ 10mWです
コレクタ損失は400mWですから、十分余裕があります
回路の定数を計算
まず、わかる部分から計算してみましょう
2SC1815(Y)のhFEは最低120ですが、100として・・・
①hFE100で、IC=21mAを流すには
21mA/100 =210μA
(IBは最低210μA必要です)
R1は一般的に「22kΩ~10kΩ」位です
今回は、22KΩにします
②R1に流れる電流I1は・・・
Vbe≒0.7、R1=22KΩとすれば
I1=0.7V/22KΩ ≒ 32μA
また、実際の回路では「IBを多め」に流します
③通常、最低必要なIBの1.5~2倍以上流します(オーバードライブ)
IB= 315~420μA以上
オーバードライブは、hFEのバラツキや温度変化などに対し
トランジスターを安定動作させるためです
上記のIBとI1を合計した電流を、74HC00から流せればよいので
④R2に流れる電流I2は・・・
420μA+32μA=452μA
ざっくり500μA(0.5mA)として・・・
0.5mA << 4mA (74HC出力電流)
十分満たしていますので、OKです
そして、R2を計算します
⑤R2を計算します
R2両端の電圧は5Vと0.7Vですから
(5-0.7)=4.3V
R2は4.3V印加で0.5mA流れる抵抗ですから
4.3V/0.5mA=8.6KΩ
抵抗のラインナップで近い値は・・・8.2KΩ
※8.2KΩ時の電流は、約524μA(0.524mA)
これで抵抗値が
R1=22KΩ
R2=8.2KΩ
と求められました
実験してみましょう
それでは、設計した回路をブレッドボードで組んでみます
今回使った半導体、74HC00と2SC1815です
ブレッドボード全面写真
上の電源ラインが5V(安定化電源から供給)
下の電源ラインが24Vです(左端のACアダプタジャックから供給)
左の黒い箱がリレーです
5Vと24Vのマイナス側は、配線をつなぎ「共通GND」とします
今回は中央のLEDをリレーで制御します
74HC00周辺
右の黄色線が機械スイッチにつながっています
74HC00は(PIN1・2・3)のゲートだけを使っています
未使用のゲートは
- 入力ピン=GND
- 出力PIN=オープン
として、誤動作を防ぎます
リレー周辺です
右からの抵抗がR2(8.2KΩ)
下(GND)へ繋がっている抵抗がR1(22KΩ)です
別角度から
今回はリレーでLEDを点灯させました
リレーは、AC100Vや、信号(スピーカー出力など)をON/OFFすることができます
原始的な手法ですが、簡単で実用的な回路です
トランジスターのVceを実測
トランジスターがOFF時:Vceにはリレー側の電源電圧(24V)が印加されます
トランジスターがON時:Vce=116mV(0.116V)です
この時、トランジスターに触れても、発熱はないです
3.3Vでも使える回路にする
Arduino MKRシリーズなど「3.3V出力」でも使用できるよう
3.3V/5Vどちらでも使用可能な回路にしてみました
3.3Vで、I2を500μA(0.5mA)流すため
R2を4.7KΩにしました
I2は・・・
- 3.3V時:I2≒553μA
- 5V時 :I2≒915μA
となります
もっと大きな電流を制御するには
トランジスターの「ダーリントン接続」です
ダーリントン接続にすると、トータルhFEは「各トランジスターの積」になります
Q1:hFE100 Q2:hFE50として
トータルのhFEは:100x50=5000
つまり、小さな電流で、さらに大きな電流をコントロールできるわけです
上図は「LTSpice」でシュミュレーションしたものです
5V・約700μA(0.7mA)の入力で、24V・1Aもの電流を制御しています!
※ただ、注意点もあります※
※Vbeは、トランジスターの段数分増える
- 2段ダーリントンでは、Vbeも2倍分(およそ1.2~1.4V位)になります
※2段目トランジスターのVceは、0.6V以下にならない
- Q2の「Vbe2」>0.6V (Q2がONするため必要)
- Q2のベースは、Q1のエミッタにつながっている(Q1のエミッタ電位>0.6V)
- Q1のVce≒0.1V(Q1のコレクタ電位は>0.7V)
- そして、「Q1のコレクタ電位=Q2のコレクタ電位」です
もし、Q1のVce=0Vだとしても、Q2のVceは「0.6V以下」になりません
問題なのは、ダーリントン接続は、Q2のコレクタ損失(PC)が大きくなりやすい
つまり、Q2が発熱しやすいことです
- Q1がわずか1mW程度なのに対し
- Q2はなんと、744mWです
コレクタ損失(PC)の大きなトランジスターを選ぶことも必要ですし、
場合によっては、Q2に放熱対策(ヒートシンク)が必要になります
おまけ(抵抗内蔵トランジスタ)
R1・R2を内蔵したトランジスターがあります
DTCシリーズという製品から、DTC114を使ってみました
通称デジトラと呼ばれていて、DTCシリーズ以外に他メーカーの製品もあります
今回のように、比較的少ない電流をドライブする用途では、部品削減になり重宝します
ただ、もっと大きな電圧/電流を扱う場合は、自分で設計する必要がありますので
基礎を知っておくことは大切なことですね