電子部品と回路

【プッシュプル】いろいろな「エミッタフォロア」回路

エミッタフォロワ(コレクタ接地)回路にも、いろいろな種類があります

これらは、重たい負荷(小さなRL)に、いかにして対応するか

色々工夫が凝らされた「改良版」、いわば派生種です

エミッタフォロア(コレクタ接地)回路の基本は、こちらに書きました

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抵抗負荷(Reあり)のエミッタフォロワ

まずは、エミッタフォロワ回路の基本形です

負荷が「あまり重くない」場合「出力振幅が小さい」場合よく使われます

実は、「抵抗負荷」のエミッタフォロワ回路は

「ちょっとした欠点」を抱えています

負荷が重く(小さく)なると、出力がクリップする

抵抗負荷のエミッタフォロワ回路では、

負荷が重くなると、出力の片側が「クリップ」してしまうのです

NPN型トランジスタでは、下側(マイナス側)

PNP型トランジスタでは、上側(プラス側)

がクリップします

なぜ出力が「クリップ」するのか?

両電源の方が理解しやすいので、こちらの回路で考えます

この回路に2.5V入力すると「下側」がクリップします

なぜか?考えてみましょう

出力がプラス側に振れる場合

トランジスタは、Vce≒0になりますので

プラス側は(+7.5V)近くまでOKです

(正確には、飽和電圧があるので、電源電圧までは振れませんが)

出力がマイナス側に振れる場合

マイナス側では、トランジスタがOFFになった場合が「最大の変化量」です

そして、トランジスタがOFFになった時は、下図の回路と同じです

この時、出力電圧は、-7.5VをRL(200Ω)とRe(500Ω)で分圧した

RL(200Ω)両端の電圧です

つまりマイナス側は・・・

-7.5Vx(200/(200+500))≒-2.14V

までしか変化できないことが判ります

抵抗Reを負荷にした「エミッタフォロワ」はこのようにも考えられます

15mAの「電流源」に「ReとRLが並列」に接続されている

電流源は「出力=0V」時の「エミッタ電流」です

出力=0Vの時、RL両端の電圧は0VですからRLは無い事と同じです

つまり、「電流源=アイドル電流」になります

500//200≒142.86Ωですから

-15mAx142.86Ω≒ -2.14V

同じ答えが導かれます

定電流源の等価回路を使えば、単電源の「エミッタフォロワ」でも容易に計算可能です

単電源の回路で計算してみます

出力=0V時のエミッタ電流(Ie)は

6.6V/500Ω=13.2mA

負荷とReの並列和=143Ω

13.2mAx143Ω≒1.89V

クリップをなくすには

エミッタフォロワ回路のクリップをなくすには

①アイドル電流を増やす

②Reの代わりに「定電流回路」を使う

③逆極性のトランジスタで駆動する(プッシュプル・エミッタフォロワ)

などの方法が考えられます

①アイドル電流を増やす

等価回路から、アイドル電流を増やせば「重い負荷」でもクリップが減ることが判ります

「じゃあ、アイドル電流を増やせばいいじゃない」という

いかにも「単純かつ力業」な方法です

Reの値を減らすか、Veを増やすことで、アイドル電流を増やします

左は、Reを250Ωにして、アイドル電流を2倍(26mA)にしました

確かに2.5Vまで、きれいに増幅できています

アイドル電流を増やすことは、最も簡単な方法ですが

  • トランジスタの発熱
  • トランジスタの最大電流
  • hfeの直線性
  • など・・・

簡単ではありますが、力業ゆえに、いろいろ別の問題も多いです

②定電流回路を負荷にする

エミッタ抵抗(Re)を「定電流回路」にする方法もあります

これは、ほぼ同じ電流(13.3mA)の定電流回路でReを置換えた回路です

シュミュレーションしてみると、ほぼ同じアイドル電流ですが±2.5Vまで出力が出ています

同じアイドル電流でも、定電流回路にすればReが無くなります

Reありの場合:13.2mAx143Ω=1.89V

定電流回路:13.3mAx200=2.66V

同じ電流でも、より大きな振幅が取り出せるわけですね

しかし、もっと大きな振幅では「電流を増やさなければ」クリップします

また、電流を増やしたとしても「定電流回路」の素子両端に「ある程度の電圧」を維持しなければ「安定動作」できません

いわば、マイナス側は、定電流回路の都合次第で、プラス側程は振幅が出ません

どうにかして、下側(マイナス側)も上側(プラス側)と「同じくらいの振幅」を出せないものでしょうか

③プッシュプル・エミッタフォロワ

どうせ、もう一つトランジスタを使うなら、

マイナス側もエミッタフォロアにしてしまおう

という発想です

トランジスタには、「コンプリペア」と呼ばれる、近い特性をもった「逆極性の品種」があります

※2SC1815では、2SA1015が「コンプリペア」になります

この「コンプリペア」を使って、エミッタフォロワを互いの負荷にする

「プッシュプル・エミッタフォロア」という方法です

「プラス側とマイナス側、それぞれエミッタフォロアで、電流を押したり引いたりすればいいんじゃない(プッシュプル)」というわけです

こんなふうに、コンプリペア「エミッタフォロア」の組合せ回路です

今回、入力振幅をわざと大きくしてみました

なんと!

下側(マイナス側)も上側(プラス側)と同様に振幅が出ています

プッシュプル・エミッタフォロアの威力はすごいのですが・・・

中央(0V)付近に段差が見えますよね、これ、目の錯覚ではありません

これは「スイッチング歪」といって、上下のトランジスタが切り替わる付近で、連携がうまく行っていないのです

トランジスタは、ベース/エミッタ間が0.6V以上にならないと動作しません

この回路では、+0.6V~0V~-0.6Vの間は、どちらのトランジスタもONにならない

「不感地帯」ができてしまっているわけです

これを、改善した回路が右側です

ベース/エミッタ間に0.6Vのバイアスがかかるように、ダイオードが入っています

バイアスをかけると「不感地帯」が無くなり、「スイッチング歪」が改善されます

このシュミュレーションを見ると、プッシュプル・エミッタフォロアは

上(下)のトランジスタが動作している時

下(上)のトランジスタはOFF状態です

上下のトランジスタが、交互に動作する=動作効率が良い

そして、バイアス電流を加減することで、交互動作をコントロールすることができるのです

これが、プッシュプル・エミッタフォロア最大の特徴です

交互動作は、バイアス(アイドル電流)でコントロールできます

どのように交互動作するかにより、次のように呼ばれます

A級(Class A)動作

  • 両方のトランジスタが常に動作状態で、OFFしない
  • 歪率がとても良い(スイッチング歪が無い)
  • 発熱が大きく、動作効率は悪い

B級(Class B)動作

  • 片方のトランジスタが動作時、もう片方が完全にOFF
  • 動作効率が非常に良い
  • スイッチング歪が生じる

AB級(Class AB)動作

  • 少振幅時=A級動作、大振幅時=B級動作になるようにアイドルを調整
  • A級とB級の利点をバランスよく狙ったもの
  • オーディオ回路でよく使われる

※参考:C級動作というのもあります

バイアスを加減して、入力が「一定レベル以上」でしかトランジスタが動作しないようにしたものです

いわば、「不感地帯」をわざと大きくしたような回路です

効率が非常に高く、主に「高周波回路」で使われます

ただし、歪はとても大きくなります

高周波回路では、わざと歪ませて「整数倍の周波数」を取出す回路(逓倍回路)もあります

バイアス付きの「プッシュプル・エミッタフォロア」回路は、見た目まさに「改良型」といった感じです

しかし・・・実用回路にはもうひと工夫必要です

スイッチング歪は改善しましたが、大きな電力を連続して取出すと

熱暴走する危険があります

そのため、実用回路では、エミッタに電流を制限する抵抗を入れます

エミッタ抵抗とバイアス電圧で、アイドル電流を調節します

さらに大きな出力(例えば、100Wのアンプなど)では、エミッタ抵抗の他に「バイアス用ダイオード・トランジスタ」を、出力トランジスタとくっつける(熱結合)場合もあります

熱結合することで、熱暴走を防ぎ「より安定」に制御できるわけです

なんだか、ここまで「魔改造」されると、抵抗負荷エミッタフォロアとは、別物に見えます

しかしながら、動作の本質は全く同じ「コレクタ接地回路」です

まとめ

抵抗負荷のエミッタフォロア回路では、振幅が大きくなると片側がクリップします

  • NPN型トランジスタでは、下側(マイナス側)

  • PNP型トランジスタでは、上側(プラス側)

エミッタフォロア回路で、出力のクリップを避けるには

  • アイドル電流を増やす
  • 定電流回路を負荷に使う
  • プッシュプル回路を使う

などの方法があります

プッシュプル・エミッタフォロアは、

  • 適切にバイアスを与えないと、スイッチング歪が発生します
  • バイアス(アイドル電流)の与え方でA級、AB級、B級動作になります
  • 通常は、熱暴走を防止する目的の「エミッタ抵抗」を入れます
  • 大電力を必要とする回路では、バイアス素子を出力素子と熱結合します

※抵抗負荷、定電流負荷のエミッタフォロアは、常にA級動作です